おいしい生活


もともとグルメでないし、普段は診療の後に、食事に満足な時間もかけられずに、すぐに手術に向かう生活で、満足に食事を味わう時間も無い状況です。
しかし、海外に行ったときは気持ちも時間も余裕ができ、おいしいものをできるだけ探しています。南の島が好きで、特にハワイは好きな場所です。このハワイで最近ヒュージョン料理とかパシフィックリムと呼ぶ、西洋と東洋とをハワイ風に融合した新しい料理の流れがあります。この中で、秀逸なのが、アランウオンズというオワフ島にあるレストランです。
写真はデザートのひとつで、蓮華にブリュレを5種類焼き菓子として詰めて、並べて出したものです。オナーシェフのアランウォンズは中国系の父親と日本系の母親のハーフです。もともとはフレンチのシェフですが、色々な国の味や趣味を合わせてさらに発展させています。味がハワイ一というだけでなく、そのサービスが素晴らしい。2回目に行ったときは、もう名前を覚えていて、マネージャーやウエイターが私の名前を言って、ウェルカムバック(また来てくれてうれしい)と声をかけてきました。
医療は普通のサービス業とは違いますが、このような心地よい心使いは充分参考になります。ただし、このレストランはずっと先まで予約でいっぱいです。彼らは予約でいっぱいと断れば済みますが、我々の病院はそうはいきません。病気は待ってくれませんから。だから普段の我々はギリギリの体力勝負で患者さんの希望に応えようと頑張っています。
海外では、たまにはゆっくりとおいしい料理に舌鼓をうちながらも、普段の日本の生活では15分くらいで昼飯を流し込むようにして、手術室に急ぐ自分の姿があります。
医師不足が社会問題化しています。また、良質な医療を提供できる施設が少ないために、患者さんが集中して、医師に過酷な過重労働を強いています。
手術は完璧に完遂します。説明もできるだけします。しかし、限られた時間を多くの患者さんに公平に使わなければなりません。最近の日本人には気持ちの余裕が少なくなったのと、権利意識が強くなったためか、時には、待つことなどに不満を感じて、強く不満を述べているのが聞こえることがあります。
我々は、分野は違いますが、アランウオンズのレストランに負けないくらい、世界最高のサービスを医療として提供していると自負できます。しかし、彼らのように、来月までテーブルが予約でいっぱいです、などと断ることはできません。最高のサービスを手術の最高の結果として提供することに、全力をあげて毎日一日中夜遅くまで働いています。おいしいレストランでは待ち、正装して上品な方が、病院では我慢できなくなる方もいます。
我々の病院は例えてみれば、ミッシェランの三ツ星レストランのようなものです。じっくりと我々の最高の味である手術の成果をじっくりと味わってみてください。お互いが、病気を克服するという意味で、ともに互いを気遣いいたわり合いながら良い環境を築いていきましょう。我々は日々努力しています。