日本の将来は如何に?価値を創造するということ。


先日、乃木坂にあるギャラリー間で、安藤忠雄さんの初期の傑作である住吉の長屋の実物大模型を見に行った。ギャラリートークがあったためか、実に多くの老若男女で狭いギャラリーはすし詰め状態でした。私も後ろのほうで立ち見でいつもの安藤節を堪能しました。ある人が安藤さんを建築界のロックスターといっておりましたが、まんざら間違ってない指摘で、最近のベトナムでの講演会ではオペラ座に7000人すし詰めで、入りきれない人へ大学で追加講演したそうです。2月は台湾での講演がありますが、数万人来ると見込まれるそうです。ギャラリー間での講演が終わり、私を見つけた安藤さんから会議室で待ってくれと言われ撮った写真です。
この後に、私立の開成高校の父兄と生徒の講演会に頼まれているとのことで、私もご一緒しました。私の高校生の頃は成績の良いものは公立高校に行き、大学も国立に行き、授業料も実に安く、大学医学部でも年間3万6千円で、当時の幼稚園の十数万円よりずっと安かったのです。ところが、いつのまにか公立中学や高校は悪平等の妙な思想から、怠けることを若者に覚えさせたために、教育ママ、パパは私立の受験に血眼になり、公立の学力の地盤沈下が始まったようです。私の頃は、横浜でも一番できる生徒は私の出身高校の県立横浜翠嵐高校に行き、少し下が私立の栄光や聖光に行きました。東京も一番は都立日比谷など公立へ行き、少し下が開成などの私立に行ったようです。教育は国民の最も重要な権利です。教育の機会がお金に左右することは何としても解決するべきです。国公立などをもっと充実させ、努力をする優秀な子供が、無料かそれに近い安い金額にて、最高の教育を受けられるようにすることが本人の為のみでなく国の将来に最も重要です。最高とは、もちろん受験勉強などでは無く、考え創造する力を伸ばす教育をするべきです。受験などははしかみたいなもので、その時は必死でも、後で全く無意味なことと分かります。受験などで燃え尽きないで、大学に入ってまた社会人になってからの努力と勉強が重要であることは言うまでもありません。
聞くところによると、今や開成は大変な進学高校らしく、安藤さんも、なんで自分が呼ばれたのかな、と言われていました。安藤さんは経済的な問題で、高校しか出ていませんが、しかし、独学で建築を極め、世界の最高の大学で教授を務め、東大でも教授となり、今は名誉教授で、学長候補でもあるようです。おそらく開成高校としては独学で世界の頂点を極め、開成の価値観からすれば最高と思う東大の教授のさらに上まで行ったから興味を持ったのでしょう。

講演の前に開成の校長などと雑談をしていましたが、多くの先生方の前で、直接は関係ない私がこらえきれずに、『開成は大変な受験校と聞きます。私も昔経験しましたが、あんなくだらない受験に血眼を上げる指導は教育とはいえないんじゃないですか?私も世界に出てみて、実に日本人で世界に眼を向け通用する人が少ない。高校生には大きな夢を持って、この夢の為に努力することへの教育をしたほうが良いと思いますが。』といったようなことを述べましたら、校長は虚を突かれたような顔をしていました。安藤さんも講演で述べていました。東大の入学式に祝辞を頼まれたそうです。そのときに入学式に学生は3千人で父兄が2階席に6千人も居たそうです。今重要なのは子供がもっと逞しくなり、親離れ、子離れしなくてはいけない。東大生もほとんど絶望的です、と述べていました。安藤さんの事務所でも東大の大学院卒の若いのが多いそうですが、あまりにもできないので怒って、お前はあほか、親の顔が見てみたい、と怒ったら、その東大大学院卒の若手は、後日、本当に両親を連れてきたそうです。安藤さんは、その若手職員は言葉の意味も分からんのか、ほとんど絶望的です、と繰り返していました。今日の日本を見ていると、実に、人々の視野が狭くなってきています。その害毒の原因のひとつは受験がありそうです。開成だけが悪いのではありませんが、日本中が本質的な重要な教育を忘れて、くだらない受験のみに走り、本質を見抜く力を得るチャンスを失った若者が、そしてそれを甘やかす親世代の中年世代も本質を見抜けずに、右往左往するか、裏で“ずる”をするようなありさまです。
私は一年前のブログで、まだ無名のオバマ氏がアメリカ大統領になるかもしれないと予言しました。オバマ氏の演説は実に魅力的であり、アメリカにはまだ望みが有るなと思いました。
一方、現在の経済不況の中で、日本のリーダーであるべき存在の、首相になった麻生さんはオバマさんに比べ、そのあまりにもひどい能力の無さと、人格的に問題がある発言を見ると、安藤さんの言葉ではないけれども、ほとんど絶望的な気分になります。2兆円というお金をばら撒くようですが、なぜ国民にとり最も重要な教育と医療にその2兆円を使わないのか。
医療と教育の崩壊は、日本が瀕死の重症状態であることの証拠です。2兆円があれば、明日の日本のための教育を向上させ、家の収入に関係なく高度な医学などの教育を誰でも受けるチャンスができます。医療は現在、未来の国民に希望を与える最も重要な用件です。国による考えの無い、医療費削減により医療機関は軒並み赤字を強いられています。医師は使命感で朝から夜中まで身を削りながら消耗しながら働いても収入は上がりません。患者がわがままになり、かつてでは想像もできない患者からの理不尽なクレームがあると医師の使命感が削がれ、もはや仕事への情熱も失いかねません。麻生さんは2兆円をばら撒くような、おろかな政策を改めて、国民に最も重要な教育と医療にその2兆円を使い、再び輝きを取り戻し、かつて世界の中で一流の教育や医療と言われた状況を取り戻すべきです。
安藤さんは講演の後に著書の販売とサイン会を開いています。この著書の印税を安藤さんは、公の社会基盤や福祉に使う基金に寄付をされています。写真は開成高校の講堂でのサイン会模様です。

講演が終わり吉井画廊に来ました。安藤さんも以前より良くご存知の陶芸家の黒田さん(兄はイラストレーターの黒田さん)の白地の高温で焼いた素焼きの作品群を見ました。このようなほとんど絶望的な日本の現状ですが、吉井画廊にふらっと寄って、芸術作品の世界と向き合うと、何か勇気が湧くような、ほっとする救いがあります。サミュエル、ウルマンが昔、詩のなかで言っておりましたが、青春とは心に夢をもっているかどうかで決まる、夢を失ったものは若くても老人となり、夢を持ち追い続けるものは、いくつになっても青春である。日本の若者がもっと夢を持ち、そのために命がけで懸命に本当の意味の勉強をする、そんな当たり前の世界に早くなってほしいと思えた、長い一日でした。